Heartnote

循環器を中心に読んだ文献などを纏めています

アスピリンは健常高齢者の二次予防に有効か?(ASPREE trial)

Effect of Aspirin on Disability-free Survival in the Healthy Elderly

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1800722

 

■デザイン:ランダム化二重盲検プラセボ比較試験

■背景:心血管疾患の既往の無い高齢者へのアスピリンの一次予防効果があるかは定かではない

■Population:米国34施設、豪州14施設の患者から、70歳以上(黒人とヒスパニックは65歳以上)の患者を抽出し被験者を募った。n=19114。除外基準は心血管疾患、心房細動のほか、認知症、貧血、余命5年を期待できない併存症など

■介入:アスピリン100mg/日 vs プラセボ

■一次アウトカム:Disability-free Survival ※死亡、認知症身体活動制限の複合アウトカム

■結果:アスピリン継続の意義がないと考えられ4.7年(当初6年の予定)で打ち切り。一次アウトカムはアスピリン群で21.5/1000 人年、プラセボ群で21.2/1000人年 (hazard ratio, 1.01; 95% confidence interval [CI], 0.92 to 1.11; P = 0.79)。ただし出血はアスピリン群で有意に多かった(3.8% vs. 2.8%; hazard ratio, 1.38; 95% CI, 1.18 to 1.62; P<0.001)。

■結論:アスピリンを健常高齢者に用いることはDisability-free survivalを延長せず、出血イベントを増加させた

f:id:molimo56:20180917202036p:plain(引用:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1800722

感想:

・まず気になるのが「健康な高齢者」がどれくらい心血管リスク因子を持っていたかですが、介入群と対照群で僅かな(1%程度の)差こそあれ、喫煙はcurrent smokerが4%(!)、ex-smokerが約40%、糖尿病10%、高血圧75%、脂質異常症65%程度とのことでした。

・また、PPIH2ブロッカーの併用状況ですが、組み入れ時にはPPIが25%、H2RBが2%とであり、その後どうしたかは記載がありませんでした

アスピリンの一次予防効果における既存の報告は、海外では50~74歳を対象とした否定的なメタ解析(Lancet 2009;373:1849-1860)が、国内では85歳以下の2型DM患者を対象としたJPAD(JAMA. 2008;300:2134-41)や60歳以上で心血管リスクを持つが既往のない患者を対象としたJPPP(JAMA 2014;312: 2510-20)があり、いずれも、せいぜい僅かな心血管疾患予防効果が見られたものもあれど、出血と相殺しあうなどして総合的には優位性なしという結果ばかりでした。

・胃粘膜保護薬と併用するのは…?polypharmacyや、PPIの長期投与の有害性が指摘されていることなど考えると、一次予防でそれは普通は無いなと思います。

・個人的には、よっぽど心血管リスクが高かったりなど特別な理由があれば一次予防での使用も考慮するものの、単にリスク因子が1-2個あるだけではアスピリンは使用せずリスク因子への介入のみにしています(当然?)。